あなたを追いかけて




今夜、RedSunsとの交流戦が行われる。
一応ハチロクが来なかったときのために私が変わりに出ることになっている。

現在21時、あと1時間で交流戦がはじまる。
RedSunsの交流戦、高橋兄弟が来るというだけあってギャラリーの数はかなり多い。
もし拓海くんのお父さんが来なかったらこのギャラリーの中で私が走ることになる。
正直やりにくい・・・。


「池谷先輩。すこし高橋さんのところへ行って来ます。」


そういうと池谷さん、健二さん、イツキくんは驚いてこっちをみる。
まぁ、そりゃぁ吃驚するよね。


「一応彼が来なかった場合私が出ることを伝えたほうがいいと思いまして。その挨拶に。カプチーノ持ってきますね。」

「あぁ、そうか。一応向こうに了承は得ているが一応挨拶しておいたほうがいいもんな。」

「え?どういうことっすか?椎名さんがでるって?え?椎名さん走り屋だったの?えぇ!?」

健二さんは納得したのかそういって、いってこいと言ってくれた。
イツキくんは私が出ることや私が走り屋だということを知らなかったらしく混乱していた。

愛車のカプチーノをバトルが始まる場所付近に止める。
高橋さんは私に気づいたのかお兄さんに一言いって二人でこっちへと歩いてくる。

「こんばんは、86がこれなかったときの代役で走らさせていただく、椎名なみと申します。」

「RedSuns代表、高橋涼介だ。こっちが今日走る高橋啓介。よろしく。」

「おぉ、なみお前が代役なんだってな。今度は負けねぇぜ。」

何て絵になる兄弟なんだろうか。
立ってるだけで存在感がある。


「高橋さん・・・あ、えっと」

「俺は啓介でいいってこの前言ったろ?」

「じゃぁ、啓介さんのお兄さん・・・?」

「涼介でいいぜ」

涼介さんのことをなんて呼べばいいのか迷っていると啓介さんが指摘してくれる。
自分なりに考えたつもりだったが啓介さんのお兄さんなんて、変な呼び方だったかな。
啓介さんは笑って、何だよその呼び方!なんて笑っている。
涼介さんもフッと笑ってから名前でいいと言ってくれた。

「では涼介さん、啓介さん試合のときはよろしくお願いしますね。失礼します。」

「あぁ」

「こちらこそ」

二人と握手をしてSpeedStarsの面々の元へ戻る。
みんな気になっていたのか駆け寄ってくる。
啓介さんたちと仲良くしていることによほど驚いたのか質問攻めにあった。
峠で勝ったこと、そこからファミレスで仲良くなったことを伝えると納得したのか解散していった。
健二さんは直前まで自分が走らないといけないと思っていたらしくすごく顔色が悪かったけど・・・
今は私が変わりに走ることになっていることを知ってかかなり落ち着いた表情に戻っている。


時刻は21時55分

どきどきしながら私たちは拓海くんを待つ。



「こちらスタート地点。準備はいいか?」

<<こちらゴール地点。全員決められた位置についた。いつでも始められるぞ。>>

「了解。ということなんで、ぼちぼちどうかな」

無線機の音と仕切っている男の人が振り返る。
いよいよ、私が走るのか。
ハチロク・・・こなかったなぁ。

「やっぱりあの人は来なかったか。頼んだぞ、なみ。」

「はい、任せてください」

よし、いっちょ気合入れますか。
今回だって負けないからね。啓介さん。

スピンターンを決めてFDの横に並ぶ。

「なみ、今回は負けねーからな」

「こっちのセリフですよ。啓介さん」


「よし、それじゃーカウント始めるぞ!10秒前!」

<<ちょっと待ってくれ!こちらゴール地点だけどたった今一般車が目の前を上がっていったぞ
 変なとこですれ違うと邪魔だし、上りきるまで待つか?>>

「ここは公道だぜ?対向車がいるくらい当たり前だ。構うこっちゃねぇ、さっさとスタートしろ」


一般車?まさか、ハチロク?だとしたら・・・


「待ってください、その車の車種聞いてもらえませんか?もしかしたら白黒のパンダトレノ、ハチロクじゃないですか?」

「車の車種はわかるか?」

<<えーっと、たしかリトラクタブルの車だったな。多分トレノだハチロクの>>

その無線機からの声が聞こえた瞬間、一部の人に緊張感が漂う。


「かせ!そのハチロク、何色だ」

<<さっきから、何でそんなこと聞くんだ。白黒だったよ。パンダトレノだ。>>

きた、話に聞いたハチロクが。
私が出る幕じゃないわね。

「遅くなってしまったけれど、少しそのハチロクを待ってもらえないでしょうか。」

「どうするんだ、カウント始めていいのか?」

私の問いに仕切っている赤いシャツの人は啓介さんに始めていいのかを問う。
啓介さんは獲物を待っていたかのような顔をし、答える。

「カウントはまだだ、そのハチロクが来るまで待て。
 俺の本当の相手は隣のカプチーノじゃないはずだ。そうだろ?」

「はい、私は代理ですので。では、私は下がりますね。」

「あぁ、この勝負、預けとくぜ。」

「はい。」

啓介さんとのバトルが保留になったのは少し残念だけどハチロクが来たならしょうがない。
私はあくまで代理、この勝負の行方を見守るだけ。

愛車を少し奥へ移動させ、歩いて池谷さんたちの方へ向かう。
ちょうどスタート地点へ誘導しているところだった。

「え・・・?拓海くん・・・?」

中から出てきた青年に一同はざわめく。

え・・・?何で拓海くん?
拓海くんって走り屋だったの?


池谷さんたちが走り寄って何かを話している。
イツキくんも走り寄ってきて拓海くんにジャンプして拳骨をくらわす。

私は混乱して彼らの元へ走っていけなかった。

混乱している間に池谷さんは納得したのかそのまま拓海くんを送り出した。


「スタート10秒前!9・・・8・・・7・・・・・・2・・・1・・・GO!!!」


FDとハチロクはフル加速でコーナーへ消えていった。
私は涼介さんの元へ行き、ハチロクの感想を聞いてみた。


「あの・・・すみません。涼介さん。お聞きしたいことが。」

「ん?なんだ。」

「今のハチロクの最大馬力、見たところ150くらいにしか見えませんでした。
 秋名のヘアピン用にラリー用のクロスミッションを組んでいるのはわかりますけど・・・」

「啓介の言うような感じには見えない。か?」

「あ、はい」

「詳しいな、俺もそう思っていたところだ。車じゃないとすれば、問題は乗ってる人間ってことになるが。」


涼介さんも同じことを考えていたらしく少し驚いた顔をしていた。


「長い夜に・・・なりそうですね。」

「・・・。」


<<なんだ、あのハチロク!すごいスピードでケツを流しながら突っ込んで、
 そのままスゲー速さで抜けてったぞ!いつすっ飛んでもおかしくねぇ!見てる方がゾッとするぜ!>>


無線が終わったあと、涼介さんの方を盗み見ると少し険しい顔をしていた。


「拓海くん・・・。」

「知り合いなのか?」

「はい、同じバイトの子なんですけど。まさかあの子がすごい子だなんて知りませんでした。」


つぶやいたのか聞こえたのか、涼介さんは訝しげにこちらを見た。
私は苦笑しながら問いに答える。
だっていつもボーとしている男の子がまさか峠を走れるだなんて。


<<こちら、スケートリンク前のストレート。今、二台が通過した。啓介が煽られてるぞ!
 秋名のハチロクはめちゃ早だ。まじかよ、啓介のFDがあそこまで追い回されることなんてなかったぜ>>


また無線が入る。信じられない。


<<この長いストレートでまた突き放したけど、
 この先ヘアピンが続くからちょっとやばいかも知れねーぞ。>>


涼介さんは無言でチームのほうへ行ってしまった。


「聞いたか、涼介。」

「誤算、だったな。秋名に、これほどの凄腕がいるとは。
 そこのカプチーノの子もなかなか分析力だ。腕もいいと聞いている。」


涼介さんはそういうとこちらを振り返り、見る。
それにつられてチームの皆さんもこっちをみる。

え・・・?なに?怖いんだけど。


<<すげー突込みだよ。あのハチロク、突っ込み重視のとんでもねぇ神風走法だ。>>


「こちら頂上。聞こえるか?」

<<涼介か?>>

「もうすぐ二台がそこの五連続ヘアピンへいく。実況中継してくれ。
 なるだけ、状況が克明にわかるようにな。」

<>


きた、五連続ヘアピン。
勝負が決まるとすればこの場所。

実況中継してくれるのはとてもありがたい。


<<うおー!ハチロクがとんでもないオーバースピードでペアピンに突っ込んでく!
 ブレーキがいかれたのか!?・・・・・・啓介が抜かれちまった!あっけなく、インからスパーっと!!>>
 
とたんに周りがざわめきだす。

「そんな、ばかな・・・。それじゃぁまるっきり状況がわからん。ちゃんと説明しろ!」

<<それが、みてた俺たちにも・・・。
 車ってのはタイヤのグリップを超えるスピードでは絶対曲がらないもんだろ?
 それなのにあのハチロク、インベタの苦しいラインなのにまずでジェットコースターみたいな曲がり方をしたぞ。
 何がどうなってるのかすっかりわからない!>>


ジェットコースターみたいに・・・?
それって・・・私がいつも使っている技・・・?
あれを私以外に使っている人がいるなんて!


<<こちらゴール地点。エンジン音が聞こえてきた。もうじき来るぞ!
 きた、どっちだ!ハチロクだ!!すっげぇどうなってるんだ。啓介のFDも来た。
 でもこんだけ離されたら差は縮められない!ハチロクがぶっちぎりだ!!

 今ゴールした!啓介が負けた!!!>>


うそ・・・拓海くん・・・勝っちゃったの?
このうわさは明日中には走り屋達に広まるだろう・・・。
負け知らずのRedsunsが秋名のハチロクに負けた、と。


「このリベンジは近いうちにつける。俺のFCでな。」


!

涼介さんのFCでリベンジ?

「あ、あの涼介さん!!」

バタン!

涼介さんはそのままFCに乗り走り出してしまった。
私は急いで愛車まで走りアクセルを踏む。
後ろで池谷さん達の声が聞こえたが、それどころじゃなかった。

なぜか、追いかけないと。

そう思った。





ドッグファイト決着。




2011.11.23