あなたを追いかけて



コンビニを出るとちょうどFCが駐車場に入ってくるところだった。
池谷先輩とイツキくんの表情が一瞬にして変わる。

「なんでここに高橋涼介のFCが!」

「あ、椎名さん今高橋涼介のFCが!!」


興奮状態の二人に苦笑して私はいう。


「涼介さんが私の待ち人ですよ。」


二人は青ざめる。
彼氏って高橋涼介かよ!

とか

勝てるわけねぇ!

とか勝手なことを言っている。
違うといっているだろうに。


涼介さんは騒いでる二人と私を見つけたのか
少し驚いた表情をしてため息をつき、車を降りた。

私を迎えに着たのにスピードスターズが居たんじゃため息もつきたくなりますよね。
わかりますよ。
にしても車を降りるだけで絵になるってどういうことなの。


「じゃぁ、先輩、イツキくん。私行きますね。」


放心状態の彼らを放って涼介さんに駆け寄る。


「こんにちは、涼介さん。すみません、ちょうど彼らに出くわしてしまって。」

「あぁ、大丈夫。でも一応挨拶したほうがいいのかな?君を借りるって。」

「いえ、実は私スピードスターズじゃないので大丈夫かと。」

「そうなのか、じゃぁ行こうか。ナビシートへどうぞ。」

そういってドアを開けて私が収まったのを見て閉める。
紳士ですね。涼介さん。
私が車の中からお辞儀をするとFCは駐車場を出た。


「突然悪かった。昨日、君の考えを聞かせてもらった時に俺の中でくるものがあったんだ。
 ちょうど啓介とも仲良かったみたいだし、少し話がしてみたいと思ってな。」

「そう、なんですか。」


近くのレストランに入って食事を済まし、涼介さんの希望で一度高橋家に行くことになった。
お昼はおごってもらってしまいました。
今日は君を連れまわすつもりだから、このくらいはさせてくれと言われてしまったのだ。

涼介さんには勝てる気がしないです。いろんな意味で。


高橋家につくと部屋に招待された。


「失礼します。」


男の人の部屋なんて入ったこと無くて少し緊張する・・・。
にしてもシンプルな部屋。さすが綺麗ね・・・。


「そこのソファーにでも座っててくれ。飲み物持ってくるから。」


そういって部屋の主は出て行ってしまった。
一緒に居ると緊張するけど、一人にしないでー!
そわそわキョロキョロしながら部屋の主を待つ。

ガチャッ


「すまない、待たせたな。紅茶でよかったか?」

「あ、はい。ミルクティーだ。私好きなんです。」

「そうか。」


ふっと笑って私に紅茶を差し出してくれる。
それから私達は昨日のハチロクの話、秋名山の話。私の話などで時を過ごした。


「もう、18時か。家は大丈夫なのか?」

「私は一人暮らしですし、明日は3限からなので遅くなっても大丈夫なんです。」


少し考えるそぶりをした後、秋名山への下見をしたいから寄ってもいいかと問う。
私は二つ返事で了解すると高橋家をあとにした。

秋名山につくと涼介さんはナビに私を乗せたまま下りを攻めることに了承を求め。
また私は二つ返事で了承をする。
だって涼介さんの走りをナビで見れるなんて!

しばらくすると後ろからストレートの早い車が来るのが見えた。


「なにか、来ますね」

バックミラーを見て少し待つかのようにスピードを落とす。
黒のR32!GT-R。
パッシングしているのが見える。

「涼介さん・・・。」

「悪いが、どれほどのもんか試させてもらう。」

「あ、はい。大丈夫です」

その声を合図にFCは加速する。

惚れ惚れするような綺麗なライン。
秋名をぜんぜん走り込んでもいないのにこんなラインで走れるなんて。

車を止めると涼介さんと32の人が出てきて自己紹介をする。
私は二人の話に耳を傾けた。

「俺は、高橋涼介。RedSunsのメンバーだ。」

「知ってるよ。俺は中里毅。NightKidsっていう妙義山のチームにいるんだ。」

「NightKidsの中里毅・・・。あの、妙義山最速の下りの走り屋か。」

「光栄だな。スーパースターの高橋涼介に名前を知られているとは。」

「でも、俺の聞いているNightKidsの中里は・・・確か、S13に乗っていたはずだが。」

その一言で中里という人の目つきが変わった。

「フッ、まぁいいさ。その妙義の走り屋が秋名で何してんだ?」

「おいおい、人の事言えねぇだろ?自分だって赤城のもんだろうが。
 お互い同じ目的できたんじゃねーのか?
 俺はな、昨日見たハチロク、あいつに会いたくてね。」

「32使いが、ハチロクに噛み付こうってのか?380馬力にチューンした32で?」

「なっ!」


そのくらい見聞きしただけでわからないとね。
あまりメカニックには精通してないのかしら。


「そのくらいわかるさ、直線でのエキゾーストとパワーをみればな。」


そういってタバコを吸う。


あ、涼介さんってタバコ吸うんだ。
さっきまで一回も吸わなかったから吸わない人だと思ってた。


「しかし、結果はわかりきってるぜ。上りじゃ、ハチロクは32に歯が立たないだろうし
 下りでは、どうあがいてもお前の32ではあのハチロクに勝てっこない。」

「なんだと?俺の32が下りでハチロクに負けるってのか!」

「気を悪くするなよ。俺は思ったとおりのことを言ってるだけだ。」

「へっ、やけに弱気じゃねーかよ。
 弟が負けたからってそこまで怖気づくこともないだろうが。
 相手はたかがハチロクだぜ?」

「一度、あいつとやればわかるだろう。ヤツに勝てるのは俺だけさ。」

「ふざけんなよ、そこまで言われちゃ意地でも引き下がれねぇな
 あのハチロクに勝って今いったことを取り消させてやる。
 いい気になっているのも今のうちだぜ!妙義にはこの中里がいるってことを忘れるなよ。
 ロータリーなんざこの32の敵じゃないってことを思い知らせてやる。」


そういうと中里さんは32に乗り行ってしまった。
タバコをくわえたまま少し遠いところを見た後、火を消し携帯灰皿に入れる。

そのままFCに乗り車を走らせた。


「悪かったな、タバコは吸わないようにしていたんだが。」

「いえ、車外だったので何の問題もないですよ。」

「そろそろいい時間だし、送っていく。今日はつき合わせてすまなかったな。」

「私は楽しかったですし、謝る必要ないです。
 涼介さん、誘っていただいてありがとうございました!」

「そうか・・・。それと俺のことは涼介でいい。」

「え?」

「啓介だって呼び捨てだろ?」

「え、はい。えっと・・・涼介。」


真っ赤になって蚊のなくような声でボソっというと満足そうに微笑んだ。
その微笑が格好よすぎてさらに顔が熱くなるのを感じた。

待ち合わせしたコンビニに着くとFCから降り、挨拶をして解散となった。

携帯をみるとメールが一通着ていた。


今日はありがとう。
有意義な時間を過ごすことができた。
また時間が合うときにでも話をしよう。


憧れの人にこんなこと言われてうれしくない女の子がいますか?
いや、いないだろう!
やばい、顔がにやける!!
早く帰っていい気分のまま寝よう!そうしよう!





進展








2011.11.23