近くて遠い
放課後、忍足くんを待つために教室に残る。
当然忍足くんは部活だし終わるまで待つことになる。
本でも読もうかな・・・。
そう思い、鞄から本を取り出したところで声がかかった。
「あれ、さん?」
扉のところに田中くんがいた。
「今から帰り?送っていくよ。」
「いや、人を待ってるの。だから先に帰って?」
「帰っても暇だし、僕も待ってもいいかな。」
「え?」
「門限あるし、5時くらいまでだけどね。」
そう言って田中くんは私の隣の席に座った。
困ったな・・・。
特に話す話題がないし、本読みたかったんだけど。
「本、読んでいていいよ。」
心を読まれたのかと思って吃驚していると田中くんは笑いながら本読もうとしていたんでしょう?と言った。
本を読み始めて集中していたのかもう5時だった。
「そろそろ帰るよ。ちゃんと待ち人と帰りなよ?危ないからね。」
「え、あ、うん。またね」
「また明日。」
田中くんが教室を出ると忍足くんが入ってきた。
「スマン、待たせてしもて。」
「あ、部活お疲れ様。」
「おん、で、また一緒におったんか。」
やっぱり教室出てきたとこ見てるよねー。
「一回は断ったんだけどね。」
「さよか。」
そういうとドアのほうから目線をこっちに変えた。
「で、話ってなんや。」
「うん、その田中くんのことなんだけど。」
「おん、どないなっとんねん。」
「実は、彼から告白を受けまして。」
「・・・なっ・・・マジな話か。」
何か予想外だったのか忍足くんはすごく驚いている。
すこし顔が赤いようにも見える。
蔵が言ってたへたれってこういうことか?
「で、私は知っての通り蔵が好きだし断ったんだけど。」
「あっちが諦めてへんっちゅー話か。」
「そうなのよ。」
「そらまためんどうやなー。」
私が苦笑すると忍足くんも苦笑をした。
ふぅと彼はため息をつくと少し安心したような顔をしていた。
「まぁともかく、田中とは付きおうてへんし、好きでもないんやな。」
「うん、私が好きなのは蔵だけだもの。」
「おん、それ聞いて安心したわ。ちょぉ心配しててん。」
にかっと笑うと満足そうにウンウンとうなずいていた。
「そういうことだから、これからも応援よろしくっ。」
「おん、まかしとき!ほなそろそろ帰ろか。」
「そうだね、今日は来てくれてありがと。」
「お安いご用やっちゅー話や。・・・・!?」
忍足くんが扉のほうを向いたとたんに体がビクッとなった。
不思議に思って扉のほうを見ると蔵が立っていた。
「謙也に、えらい仲良さそうやな?2人して何しとるん?」
「白石こそどないしてん。」
蔵は間違いなく怒ってる。
忍足くんも感じたのだろう、顔が引きつっている。
「用事があるっちゅーから部活はよ終わったんやで?におうとるとはなぁ。」
ニコニコしていてもイライラが伝わってくる。
これじゃぁ確実に謙也くんが怒られる・・・!
「ごめん、蔵。私が少し相談したいことがあって。」
「が?」
私が怒られるのはいいけど、なれてるし。
謙也くんは呼び出したようなもんだし守らなければ。
「謙也は帰ってええで、俺はこいつ送っていくさかい。」
「お、おん。きぃつけて帰りや!ほなな!」
流石浪速のスピードスター。
あっという間に教室を出て去っていった。
「で?謙也に何の相談や。俺じゃあかんかったん?」
「や、そうじゃなくて・・・。その、好きな人の相談とか幼馴染にしにくいじゃない?はずかしいし。」
好きな人に好きな人の相談できませんよ。
なんて言えないから一般論を言っておく。
「好きな・・・やつ・・・?」
よっぽど驚いたのか目を見開いて私を見る。
動揺しているのが目に見える。
「誰や。」
「え?」
今まで聞いた事のないような低い声に吃驚した。
私が驚いて黙っていると、予想していない名前が出た。
「謙也か?」
「え?違うよ。なんで本人にそんな相談するのよ。」
「せやかて、さっきかばっとったやん。」
「そんなの私が呼び出したのに怒られたらかわいそうでしょ!」
「ほな、田中か?最近よう一緒におるし。」
「違うわよ。田中くんは最近告白され・・・あっ・・・。」
そう言ってしまった瞬間、また蔵の目つきが鋭くなる。
「告白やて?」
「う、うん。・・・痛っ!」
「・・・付きおうてるん?」
「蔵、痛いっ・・・痛いよっ・・・。」
告白されたことを肯定すると両肩を掴まれる。
かなりの力がかかっているらしく痛い。
痛みに涙が出て声がでなくなっていく。
こわい。
その時初めて蔵が怖いと思った。
「蔵っ!痛い!!やめて!」
大きな声を出して言うと我に返ったように反応し、手を離した。
「す、すまん・・・俺・・・。」
蔵は私に手を伸ばしたが、私は恐怖心から手を払いのけてしまった。
「ご、ごめん、私ひとりで帰るね。また・・・明日。」
そういって私は鞄を持って走り出した。
蔵ノ介のほうをちらっと見るとすごく辛そうな顔で下を向いていた。
「何してんねん・・・俺・・・。」
2012.01.31