観察
千歳くんが気になりだしてからたまにテニス部をのぞくようになった。
といってもあれから一週間しか経ってないのだけれど。
もともと白石や謙也くんとはそれなりに仲がよかったから見には行っていたのだけれど。
「あれ、珍しいお客さんやん。見にきたん?」
声をかけてきたのは忍足謙也くん。
私の転校してきて一番初めに声をかけてくれた友達。
一番初めに話しかけられたとき、カッコイイが金髪でちょっと怖かった覚えがある。
でも中身はまったく怖くなく、話しやすかった。
「うん、最近ちょっと気になる人が出来て。」
そう言った瞬間、謙也くんは青ざめて叫んだ。
「し、白石ー!!」
呼ばれた本人は吃驚して試合中にもかかわらずこっちに走ってきた。
やめて、視線が痛い。
「なんや謙也、練習中やで?ってやん、珍しい。きとったんか。」
「あ、うん。」
「ちょ、し、白石。お、落ち着いて聞いてくれ・・・・・・!」
「とりあえずお前が落ち着けや。」
流石白石、冷静だ。
相変わらず謙也くんは青ざめた顔であわてている。
なんか、まずいことでも言っただろうか。
「に、気になる人が出来たらしいんや・・・!テニス部に!」
謙也くんがその言葉を発した直後。
白石の様子までおかしくなる。
「はっ!?ちょ、マジか!?、誰や!?」
「え、えぇ?なんでそんなに驚くのよ。」
当然の疑問よね?
なんでそんなに二人が気にするのか。
私にはさっぱりわからないんだけど。
「あかんねん・・・・・・誰や、財前か!?そ、それとも・・・・・・。気になるやつできたら相談せぇて言うたやろ・・・・・・。」
「いや、言われてないから。」
しかし、すごい動揺してるなぁ。
私が誰かを好きになったらなにかまずいんだろうか。
「ないしょに決まってるでしょうが。とりあえず練習戻りなよ。」
そういって苦笑していると千歳くんを見つけた。
目線は千歳くんに向けたまま話した。
「まぁ今日はお礼を言いに来ただけなんだけどね。」
「ほ、ほなら気になるヤツがおるっちゅーのは嘘か?」
「・・・・・・さぁ?」
「嘘ちゃうんかい!!」
「あーあかん、どないしよ。それは死活問題やで、謙也。」
「わ、わかっとる・・・・・・。」
二人はブツブツいいながら震えだした。
いったい何なんだ。
「まぁ、これ以上練習を邪魔するのもアレだし千歳くんに伝言頼みたいんだけど。」
「!?」
これ、何に反応した・・・・・・?
練習を邪魔する?
それとも伝言?
・・・・・・わからん。
「ち、千歳に何の伝言すればええねん。」
「あぁ、この前、図書室でとどかない本とってもらったの。」
「ほう。」
「ちょっと時間空いちゃって覚えてるかわからないけどそれのお礼言いたくて。」
「はぁー・・・・・・。」
「大丈夫や、絶対覚えてると思うで。」
謙也くんはため息をつき、白石は親指を突き出しながらキラキラした笑顔で自信ありげに言った。
「その自信、どこからくるのよ。まぁ、練習終わった後でいいから時間が欲しいって伝えてくれない?」
白石は私の肩を掴むと、まかしとき!と真剣な顔をして言った。
相当焦っていたのか謙也くんは一瞬脱力した。
「ま、まかせた、よ・・・・・・?」
「おう!」
白石は大きく頷き、謙也くんはいい返事をする。
何、この人達。
まぁ、とりあえず伝言は頼めたし終わるまで離れたところで眺めていようかなー。
今まで白石や謙也くんしか見てなかったから他の人を見たことなかったけど。
やっぱりみんなうまいんだなぁ。
全国上位行くだけあるよね。
うまい人の楽しそうなプレイ見ると、私も始めてみたくなる。
高校いったら硬式テニスはじめようかな・・・・・・?
しばらくすると白石と謙也くんが千歳くんに話しかけているのが見えた。
白石が私の方を指差すと千歳くんは吃驚しながらこっちを見た。
おい、人を指すな。
話し終わったのか千歳くんはコートを出て私の方へ走ってくる。
え、あれ、練習は・・・・・・?
千歳くんの後ろでは満面の笑みで白石と謙也くんが手を振っていた。
なにあれ。
「さん、どげんしたと?」
「白石、何も言ってなかった?」
「なんも、若菜さんが待ってるって聞いただけばい。」
「あ、そうなんだ。いや、本の事ちゃんとお礼言っておきたくって。部活中にきてごめんね。」
「ああ、そぎゃん事、気にせんでよかよ。また必要な時はいつでも俺にいいなっせ。」
そういって千歳くんは笑った。
その笑顔に少し、どきりとした。
「うん、ありがとう。」
笑い返すと千歳くんは私の頭をなでた。
いきなりのことで驚いていると、彼はキョトンとした顔をした。
「ん?頭なでられるのは好かんと?」
「あ、いや・・・・・・好きじゃないというか、私、背高いでしょ?だからされ慣れなくって。」
「そんなら慣れればよかよ。よしよし。さんはかわいかね。」
「えっ、いや、そういう問題じゃ・・・・・・うう・・・・・・。」
相変わらずニコニコした顔で頭をなでていた。
その手はそのまま髪の毛で遊びだした。
もうどういう反応していいのかわからず熱い顔を下を向いて必死に隠した。
何この状況!!
「さんの髪サラサラやねー。触るのが癖になりそうばい。」
「そ、そうかな。ありがとう。」
「・・・・・・そんならぼちぼち部活に戻るたい。」
「あ、うん。時間とらせちゃってごめんね。ホントにありがと。」
「気にせんでよか。ほんならまた。」
「うん、またね。」
そういって千歳くんは部活に戻っていった。
なんか、疲れちゃった。
千歳くんのペースに乗せられちゃって肝心な事全く言えなかった気がする・・・・・・。
後日聞いた話によると、その日の千歳くんはすごく機嫌がよかったとか。
白石と謙也くんにこの調子で頼むでって真剣に言われたけどよく意味がわからなかった。
あの二人何に燃えているのか・・・・・・。
お礼を言いにきたっていうのは建前で、ホントは観察しにきてますなんて言えないじゃない?
・・・・・・観察するどころじゃなかったけど!
千歳ェ・・・・・・。
謙也や白石は書き始めれば1日で終わるのに対して千歳は3日くらいかかる。
主に方言のせい。
そしてきっとネイティブの方には違和感ありまくりという現状。
2012/05/11