・・・拾っちゃった



あー雨かー。

朝起きるとザーっと雨の音がした。

むくりと起き上がると目をこすりながらリビングへ向かう。


高校生になってからはじめた一人暮らし。

最初は寂しかったけれど慣れとは恐ろしいもので半年もたてばそんな気持ちはなくなった。

朝食を終えて制服に着替えると傘を持って家をでる。


「いってきます。」


誰もいない家だけれど、いってきますを毎回言ってしまう。

もちろん帰ってくるとただいまも忘れずに。


外へでると雨の日独特の匂いがする。

この匂い、私は嫌いじゃない。

今日は寒冷前線の影響なのかいつもより寒い気がする。


なんとなくいつもより早く出てきたから今日は少し遠回り。

公園は木が植えてあって雨を防いでくれる。

不意に雨と私のたてる音以外にチリンと音が増えた。

キョロキョロと周りを見渡すとベンチの下にダンボールがあるのが見えた。

近づいてみるとまたチリンと音がした。

覗いてみると中には子犬がいた。

雨に濡れてところどころ泥が付いている。

寒いのかぶるぶると震えている。


「捨て犬・・・・・・?しっぽに鈴ついてる・・・・・・。」


声を発すると私に気づいたのか顔を向けた。

人が来るのを待っていたのかしっぽを振りながら座る。

しっぽを振るたびにチリンチリンと鈴が鳴る。


「おまえ、捨てられてしまったの?」


言葉が通じるとは思わないが一応聞いてみると、ふるふると横に首を振った。

え、言葉が通じる・・・・・・?


「じゃぁ、飼い犬・・・・・・でもないよね。」


すると首を縦に振りしょんぼりとしっぽを振るのを止め耳もぺたんと下がった。

・・・・・・どうしよう。

このままここにおいておくのもかわいそうだし。

じっと見つめていると子犬もじっと私を見る。

うーん。

考えているとくーんと子犬が鳴いた。

・・・・・・しょうがない、ここにおいておくのも可哀想だし連れて行くか。


「うちに、くる?」


そういった瞬間待ってましたといわんばかりにキラキラした目を向け、わん!とひと鳴き。

高校は・・・・・・熱が出たとかいって連絡すれば大丈夫よね。

そう考えながらダンボールから抱き上げると震えているのがハッキリと感じられるようになった。

濡れた毛と冷えてしまった体温に眉を顰めると急ぎ足で家に戻る。


「すぐに、お風呂入れてあげるからね。」


マンションに着くとすぐにお風呂に入れてぬるめのお湯を出す。

流石に制服ではいるわけにはいかず着替えてくるから少し待っててねと言うと、わん!とひと鳴きして風呂場で座る。

面白いほどに言葉が通じるなと考えながらランニングとショートパンツにはきかえると風呂場に戻る。

ドアを開けると子犬は桶に入れてあったお湯に浸かっていた。


「おまえは賢い子ね。」

「わん!」

「ふふ、人間と話しているみたい。」


ゆらゆらと桶の中でゆれる毛を見ながら頭をなでてやると、気持ちがよさそうにしていた。

しばらくすると桶から出てドアの前でぷるぷると体を振るった。


「もういいの?」


そう聞くとこくりと頷いた。

本当に頭のいい子。

なんだろう、まるで人間と会話しているように意思疎通できる。

動物用のシャンプーはなかったから本当の意味で綺麗にはしてあげられなかったけど泥は取れたみたい。

タオルで拭いてやると綺麗な金色の毛並みになった。


「おまえ、綺麗な毛の色ね。あー、いつまでもおまえっていうのもあれよね。」


そう私がいうなり子犬はリビングの方へ走っていった。


「ちょっと!どこ行くの!」


慌てて追いかけるとキョロキョロしているのを見つけた。

目当てのものを見つけたらしく駆け寄ると、前足と口を使い器用にページをめくりだした。

吃驚して見ていると子犬は私の方へ駆け寄り前足でつま先を叩いた。

ハッとして下を見るとまた新聞のほうへ行きひと鳴きした。

新聞を前足で叩き何かを示している。


「竹刀?」


その新聞には大きく竹刀が載っていた。

しかし、何か違っていたらしくふるふると首を横に振る。


「刀?」


ふるふる


「竹?」


ふるふる


「ごめん、わかんない。」


しばらく考えた後、そう言うとガクッとうな垂れてまたキョロキョロしだした。

今度はローテーブルの上に飛び乗りノートパソコンのキーを打ち出した。


『謙也』


ご丁寧に変換までしてくれた。


「けんや?」

「わん!わん!」


嬉しそうに鳴くとローテーブルの上から降りて駆け寄ってくる。

が、私は凄いという感情より怖いという感情が心を支配していた。


「キミ、本当に普通の犬なの・・・・・・?」


それ以外の選択肢なんてないはずなのにそう聞かざるをえないほど頭がよすぎる犬。

なんだかこわくなって、つい離れてしまった。

キョトンとして近づいてきた瞬間。


「こ、こないで。」


怖くなってそう言い放つとしょぼんとしてドアの方へ歩いて行ってしまった。

その後姿が本当に悲しそうでとっさに追いかけた。

後ろから抱き上げるとじたばた暴れたが、ぎゅっと抱きしめる。

数分するとおとなしくなり、私の顔色を伺うように顔を寄せた。


「ごめんね、怖がったりして。ご飯にしよっか。」


そういってソファーにおろすと謙也はそのままそこにお座りをした。


「とはいったものの、ドッグフードなんてないしなぁ。」

「!?」


ドッグフードと聞いた瞬間、謙也は思いっきり首を振った。


「え、ドッグフードいやなの?」


ブンブンと聞こえそうなほど首を縦に振る謙也。

ドッグフード嫌がる犬なんて聞いたことないんだけど。

とりあえず自分の分を作ってローテーブルに置くとソファーから降りて一目散に駆け出した。


「・・・・・・それ食べたいの?」


こくこく

上下に首を振ると料理をじっと見つめる。

スクランブルエッグなんて犬に食べさせていいのかしら。


「た、食べれるなら食べてもいいよ・・・・・・?」


その一言に目を輝かせると卵に思いっきり顔を突っ込んだ。

あーあ、顔、卵だらけ。

その食べっぷりに笑みがこぼれた。


「ふふ。放り出すわけにも行かないし。」

「くーん・・・・・・。」

「大丈夫、追い出したりしないよ。私は、これからよろしくね。謙也。」

「わんわん!」


そんなこんなで人間のように頭がよく、太陽のようにキラキラ光る金の毛色を持った


『謙也』


というゴールデンレトリバーの子犬を飼うことになりました。






・・・拾っちゃった。




2012/05/12




犬っ子謙也くん。