Stop and go.
次の日、学校へ行くと忍足くんは珍しく白石と一緒におらず席についてボーっとしていた。
昨日の事について2人同時に話したかったんだけどな。
忍足くんの席に近づくと忍足くんは席を立ち教室を出て行ってしまった。
避けられた・・・?
タイミングが悪かったのか何かあったのか、とりあえず自分の席に向かうと白石が近づいてきた。
「今日は遅かったな?おはようさん。」
「あ、白石・・・おはよう。」
昨日のことが気になって少し遠慮がちな挨拶になってしまった。
そんな私を見て白石は苦笑した。
「昨日のこと、気にしてへんって言うたら嘘やけど、無理には聞いたりせぇへんよ。」
「・・・うん、ごめんね。その、ありがとう。」
「どーいたしまして。それより謙也や。あれどうみても避けられとったやろ?」
さっきの忍足くんの態度。
やっぱり白石の目から見ても避けたように見えたんだ。
「やっぱり、避けられてる・・・よね?」
「んー・・・まだなんとも言えへんけど何やおかしいな。まぁ、しばらく様子見よか。」
「うん。」
それからお昼になるまでことごとく避けられ忍足くんと話すことはなかった。
白石は何度か忍足くんに何かあったのかと聞いていたけど忍足くんはなんでもないの一言だった。
お昼、予想もしてないことが起こった。
女子部員のリーダー格である白木真弓さんが教室に現れ、忍足くんの腕に自分の腕を絡めると教室外へ出て行った。
途端に教室内はざわめき大きな声が教室内に響いた。
「白石ー!!」
「なんや、設楽。そないにでかい声ださんでも聞こえる言うてるやろ?」
設楽さんは教室内へ入ってきて私の机と白石の机にバンッと手をつくと衝撃発言をした。
「謙也と白木さんが付き会うとるってほんまなん!?」
ガツンと頭を殴られたような感じがした。
忍足くんと白木さんが付き合ってる・・・?
「はぁ?そんな話聞いてへんで。」
「うちも最初信じられへんかってん。友達にきいてんけどどうやら昨日なんかあったみたいで。」
「昨日・・・。」
私が帰った後何かあったんだろうか。
忍足くんはあの後メールをくれてなんかあったら言ってくれっていってくれた。
でも、今日の態度・・・。
どう見ても避けられているし、白木さんと付き合い始めたことも初耳だ。
別に白木さんと付き合い始めたことを隠すことなんてないのに。
いや、白木さんが女子テニス部だってことは知っているはずだから私に遠慮したっていうのが一番考えられるのかな。
そうだよね・・・昨日白木さんは休みだったけれど友達を泣かせていた人の仲間だった人と付き合うことにしたんだもの。
遠慮するのは当たり前の話よね。
忍足くんは友達じゃなく彼女をとった。
私という存在ではなく白木さんを。
私の心の中で何かが壊れたような気がした。
「言ってくれればよかったのにね!私知らなかったよ。」
口から出たのは明るい言葉だった。
白石と設楽さんは顔をしかめて何も言わなかった。
「お昼食べよう?設楽さんはもう食べた?」
「え、あ、うん。食べたよ。」
「なぁ、設楽。俺もう遠慮せぇへんわ。」
「白石・・・。私もアイツのことわからへん。好きにしたらええと思う。」
二人の会話に私は首を傾げたが、話す気はないらしい。
わかったのは白石は今まで何かを我慢していたということ。
そして我慢することをやめるということ。
「、覚悟しいや?」
そう言って私に笑いかけたのもよくわからないことだった。
設楽さんは苦笑をして教室へ戻っていった。
* * *
それからの部活は何か言われることはなくなっていた。
指示しても何も文句は出ず、静かな部活となった。
いつもなら真っ先に文句を言って指示を変える白木さんも静かで怖いくらいだ。
部活が終わると白木さんはすばやく着替えを済ませて部室を出て行った。
「きっと忍足先輩が待ってるんですよー。」
「いいなー白木先輩!」
そんな声が聞こえてくる。
心が痛む。
いつものように着替えを済まし部室を出る。
なんとなくフラフラと男テニの近くを通ると財前くんが部室から出てきたところだった。
「あれ、さんやないですか。どないしはったんです?」
「あ、いや部活終わってなんとなくこっちに。」
「あー謙也さんは・・・。」
財前くんは眉をひそめて言い辛そうにしていた。
気にしてくれてるんだね。
「いいの、知ってるから。」
「・・・そうですか。俺は帰りますんで。」
「うん、ばいばい。財前くんもありがと。」
「なんの事だかわかりません。雨降りそうなんではよ帰ってくださいよ。」
「・・・うん、ありがとう。」
頭を下げて財前くんは帰っていった。
部活が終わったら居てもいなくても忍足くんを見に来てた日々。
それも終わりなんだね。
ピシピシと音がまた聞こえた気がした。
心の音
2012.02.27