Stop and go.
次に目が覚めたのは真っ暗な暗闇の広がる夜だった。
ボーっとする頭で必死に状況を整理する。
そうだ・・・・・・。
自暴自棄になってまた人に迷惑かけたんだ。
手櫛で髪をといてベッドから降りる。
白石、どこにいるんだろう。
勝手に部屋から出てもいいのかな。
そんなことを考えながらふと服を見ると自分の制服ではなく少し大きめのスウェットを着ていた。
あ、あれ?
私の制服は・・・・・・。
電気を探してつけると辺りを見回してみる。
すると学ランの横に自分の制服がハンガーにかかっていた。
その下にはテニスバッグがあった。
中身を確認しているとノックが聞こえた。
「はい、どうぞ。」
「具合、どうですか?」
そう言葉を発するとツインテールのかわいらしい女の子が入ってきた。
てっきり白石だと思っていた私は吃驚して言葉を失ってしまった。
女の子は少し笑うとまた口を開いた。
「はじめまして、くーちゃんの妹の友香里いいます。」
「はじめまして、えっと、友達のって言います。」
そう自己紹介をすると今度は友香里ちゃんが吃驚した顔をした。
「え、彼女さんやと思ってた!何やーからかおう思てたのにー。」
「ふふ、白石ってくーちゃんって呼ばれてるんだ。」
笑いながら言うと友香里ちゃんはここではくーちゃんって呼んだらええと思いますよ。
どうせココみんな白石やし。と付け加えて笑った。
「そっか、そうだよね。みんな白石だ。」
「そうそう。」
友香里ちゃんは初対面なのにすごく気さくに話してくれるいい子だった。
「あ、せや。さんの様子見にきたんやった。飲みたいもんとかないですかー?」
その言葉でのどが渇いていたことに気づく。
「お茶、もらってもいいかな?」
その問いに友香里ちゃんはにっこり笑い立ち上がる。
「ええよ!ちょぉ待っててな!」
ドアが閉まるとぱたぱたとスリッパの音が遠ざかっていく。
あんな可愛い妹うらやましいなぁ。
ということは、家族って美男美女って感じなのか。
なんてうらやましい。
にしても、健康グッズ多いなー。
前に忍足くんが買い物のこと言ってた時に健康グッズのとこから動かないって話したもんなー・・・・・・。
そう考えてふと自然に忍足くんの事を考えていることに気づく。
・・・・・・だから、病気かっての。
ガクッとうな垂れているとノックの音と白石、もとい、くーちゃんの声が聞こえた。
「はいるでー?」
「どうぞ。」
入ってきたのは友香里ちゃんで一瞬疑問に思ったが、後ろからちゃんと声の主も入ってきた。
「自分の部屋やん。なんで許可取るん。」
「水谷が着替えとったらどないすんねん。」
「着替えって制服しかあらへんやん。」
「まぁ、そうやけど・・・・・・。」
そんな兄妹のやり取りをくすくすと笑いながら見ていると2人ともこっちを向いてほっとしたような表情をした。
「具合、大丈夫そうやな。」
「うん、ありがとう。」
「ほんま、くーちゃんが必死な顔して家入ってきたときは吃驚したもん。」
「お、おい友香里っ。」
「ホンマのことやん?」
ニヤニヤしながら何やら焦っている白石をからかう友香里ちゃん。
「ありがとう、くーちゃん。」
そう笑って言うと、白石は吃驚したような顔をしてからそっぽを向いてしまった。
「あかん、反則や・・・・・・。」
私にはよく聞こえなかったが隣にいた友香里ちゃんには聞こえたらしく一層笑みを深めた。
「友香里、余計な事いうたら怒るで。」
「わかってる。」
何の話かわからず何の話か聞いてみたが、二人は誤魔化すだけだった。
「とりあえず、今日はもう泊まっていけばええよ。」
「あ、うん。なんかお世話になっちゃってごめんね。」
「かまへん、両親は今旅行中やし。友香里ともう一人姉がおるだけや。」
「そうなんだ?お姉さんは・・・・・・。」
「今日は外泊するっていうてたような気がする。」
お菓子を食べながら白石と友香里ちゃんは答える。
しばらく談笑をしていると友香里ちゃんは空になったお皿とコップを手にして立ち上がる。
「ほな、さん病み上がりやし、そろそろうち部屋戻るわ。」
「あ、うん。ありがとう。また明日ね。」
「うん、お大事にー!」
そういいながら友香里ちゃんは部屋を出て行った。
出て行った姿を確認すると白石のほうへ向き直る。
白石は少しため息をつくと急に真面目な顔をした。
何かを決心したような、そんな顔を。
「あんな、謙也の事なんやけど。」
白石の言葉に体がこわばったのがわかる。
そんな真剣な顔をして、何をいうつもりなんだろうか。
私が緊張しているのがわかったのか、そんな身構えんといて。と笑った。
そしてぽつぽつと真実を話し始めた。
私にメールした後に白木さんに言われたこと。
私を守るために白木さんと付き合っていること。
それと、これからもそれを続けていくこと。
最後に、この話は私にしないで欲しいと言った事。
白石は話し終えて私にどうするのかを聞いた。
「・・・・・・忍足くん、勝手過ぎるよ。」
「・・・・・・。」
どうするかなんて決まってる。
「私、明日忍足くんと話すよ。忍足くんがそんな私のために好きじゃない人と付き合わなくていい。」
「せやけど、謙也が別れたら多分余計にいじめ辛くなるで?」
「・・・・・・忍足くんに無視されるほうがよっぽど辛い。」
その答えに白石は苦笑して、はー・・・・・・完敗やわ。とつぶやいた。
「それに、他がどうであれ私には設楽さんや白石がいる。戻ってきてくれるなら忍足くんも。そんないじめなんてつらくないよ。」
「・・・・・・なぁ、白石っての終わりにせぇへん?」
「うん?」
「名前や名前。」
「・・・・・・蔵ノ介?」
「それや!俺もって呼ばせてもらうで。」
名前を呼んだ瞬間ものすごく笑顔で嬉しそうな白石が見えた。
何故急に名前を呼んで欲しいと言い出したのかわからなかったが、その笑顔をみてもっと前から言いたかったのかもしれないと思い直した。
蔵ノ介と呼ぶこと、と呼ばれること。
少し気恥ずかしい気もするが、前よりもっと絆が深くなったと考えるとうれしさで胸がいっぱいになる。
自然と笑みがこぼれた。
「さっき、俺らがいればええって言うてくれたこと。ホンマ嬉かってん。ありがとな。」
「そんな、私、こんなんだけどこれからもずっと友達で居てね。」
「・・・・・・せやな。」
笑顔でそう言うと白石は苦虫を噛みつぶしたような顔で私を見た。
今にも苦しそうで泣きそうなそんな顔で。
「白石・・・・・・?」
「なんでもないで。友達より親友って言うてくれや。」
そう笑いながら言った白石にホッとしてそうだね。と返すと白石は立ち上がり苦笑した。
「病み上がりなのにこんな話してスマンかったな。」
「ううん、話してくれてありがとう。なんか気持ち軽くなった。」
「そーか。ほな、俺もそろそろリビング行くわ。はゆっくりそこで寝ぇや。」
「ベッド本当にありがとう。あと今晩だけお借りしますっ。」
「ええねん、俺はおとんの部屋つこうとるさかい。ほな、おやすみ。」
「うん、おやすみなさい。」
ガチャンとドアをしまる音がすると再び部屋に静寂が訪れる。
けれど、前のように気持ちが押しつぶされそうな感覚はなく少しあたたかい。
白石家様様、だね。
明日忍足くんにすべて話そう。
私の気持ちも、全部。
白石家
2012/03/05
今回は白石回。
謙也夢のはずなのに白石夢になりかける。
にしても白石かわいそうな位置ですね。
私なら耐えられない(苦笑)