Stop and go.
白石家で目を覚まし、朝ごはんを蔵ノ介と友香里ちゃんで一緒に食べ、一度家に戻る。
今日は勝負の日。
忍足くんはちゃんとわかってくれるだろうか。
不安な思いがわき上がってくるけど頭を振ってその考えを消す。
こんなことばかり考えててもしょうがない。
今日全部話してダメだったらそのときはもうしょうがないことだから。
頭を切り替えてどう説得するかを考えよう。
告白も、しなければ・・・・・・。
身支度を済ませると白石家の前まで歩く。
折角家が近いんだからと誘ってくれたのだ。
「蔵ノ介。」
「お?早かったなぁ。」
なんかまだ呼びなれないけれど、段々この呼び方もこの先慣れていくんだろうか。
忍足くんのことも名前で呼びたい、そう強く思った。
「ほな、いこか。」
「うん。」
通いなれたこの道。
3日間休んだだけですごく新鮮な感じがした。
いや、気持ちが少し軽くなったからだろうか。
だとしたら本当に蔵ノ介には感謝しなきゃだよね。
部活のこれからの事や、忍足くんの話をしながら登校していると大好きな人の後姿を見つけた。
「・・・・・・忍足くん。」
「ん、ほんまや。」
走って門の前でこけて、そんな日々を過ごしていたはずの彼が今は白木さんと一緒に歩いて登校。
・・・・・・ごめんね。
「そんな顔しぃなや。今日で終わらせるんやろ?」
「・・・・・・うん、そうだね。」
教室につくと真っ先に忍足くんのところへ向かう。
避けられると思ったが、忍足くんは席から離れることはしなかった。
「おはよう、忍足くん。」
「・・・・・・おはようさん。」
私の顔をみることはしなかったが挨拶を返してくれたことが嬉しかった。
「今日、話があるの。」
「・・・・・・俺には、ない。」
「蔵ノ介から話は聞いた。それでも話、聞いてくれない?」
そういったとたん忍足くんはガバッと顔を上げて、目が合った。
困惑で揺れる瞳。
「前みたいに私の問題だと言って逃げる気はもうないよ。それでも話、してくれないのかな。」
今度はしっかり目を合わせて忍足くんに問う。
忍足くんは昼に屋上で待ってると言うと、席を立とうとした。
「蔵ノ介には何も言わないでね。」
そういうと忍足くんはチラッと蔵ノ介のほうを見てため息をついた。
イライラしているのは目に見えていたからそれ以上は何も言わなかった。
否、言えなかった。
すごくピリピリした空気が漂う。
「・・・・・・ほな、また後でな。」
「うん。」
今度こそ席を立って忍足くんは教室を出て行ってしまった。
今まで忍足くんと話してきて一番緊張した気がする。
一番最初に話した時より、もっと。
でもこれで話す約束が出来た。
そのことにホッとして蔵ノ介に報告すると、頑張りや。といってくれた。
* * *
お昼、ついに時間がやってきた。
忍足くんは4限目に気分悪いんで保健室行ってきますと言って出て行ったきり戻ってはこなかった。
それでも、彼は屋上で待ってるといっていたし信じて屋上へ向かう。
保健室を見てもきっと居ないだろう・・・・・・そんな気がした。
屋上につき、扉を開くと眩しいほどの光に目を細める。
生ぬるい風が吹く屋上の影に忍足くんが座っていた。
「忍足くん。」
その一言に私のほうを見ると手招きして自分の横を叩いた。
無言で頷くと忍足くんの叩いた場所に体育座りをした。
スカートはそんなに短くないから手で一緒に抱えれば問題ない。
「来てくれてありがとう。」
「・・・・・・おん。」
気まずい空気のなか、何から話そうか迷っていると忍足くんが口を開いた。
「白石にどこまできいたん?」
私は忍足くんの方を見ると、蔵ノ介から聞いたことを全部話した。
忍足くんは全部やん・・・・・・。と呟いて苦笑した。
「私ね、蔵ノ介や忍足くん。設楽さんや男子テニス部の皆がいればそれでいいんだよ。」
「・・・・・・。」
「忍足くんが無理やり付き合わなくてもいいんだよ。」
「せやかて、そんなん・・・・・・辛いに決まってるやんか。」
忍足くんは目を伏せて下を見ながらそう言った。
「・・・・・・うん、辛いよ。すごく。」
「せやから・・・っ!」
「でも、私は、忍足くんに前みたいに話してもらえない方が、その方がずっと辛いよ。」
忍足くんの言葉をさえぎって続ける。
ずっと言いたかった。
ずっとずっと思ってきた事。
「私は・・・・・・、わたしは・・・・・・っ。」
言葉をさらに続けようとすると涙が溢れてきてうまく言葉にならない。
とっさに下を向いた。涙をさとられないように。
好きだと、あなたが好きだと。
そう続けたいのに・・・・・・。
「・・・・・・この2週間とちょっと、アイツと、白木と付き合うのがのためや、そう思ってきた。」
「それはっ・・・・・・。」
「おん、ちごうてたんやな。アホみたいや。」
移動する気配がして顔を上げると、忍足くんは目を閉じて深呼吸し、立ち上がって日向へ移動する。
「ホンマはわかってたんかもしれん。が元気なくなっていく姿を見て。」
髪に太陽が当たってキラキラしていた。
「それでも自分のしていることに疑問を持ちたなかった。」
とても、綺麗で素敵で・・・・・・。
その髪に負けないくらいの笑顔で彼は言った。
「決めた。俺、別れるわ。」
まさかその選択をしてくれるとは思っていなかったから驚いて涙が止まった。
泣いていたのはばれていたようで何も言わなかった。
「この前な、白石に自己満足やって言われてん。の気持ち考えたことあるんかって。」
「蔵ノ介が・・・・・・?」
「せや、そんなんただの自己満やんって。」
「・・・・・・。」
「確かにそうやんな。付き合うことで守ってるって勝手に思い込んでホンマは逆に傷つけててんから。」
「・・・・・・。」
「一人で突っ走って悲しませてしもてホンマごめんな。」
「・・・・・・ううん、その、ありがとう。」
「お礼をもろてええんか微妙なとこやけどな。」
そう言ってまたにこやかに笑った。
私の大好きな笑顔で。
――この人を好きでよかった。
素直にそう思った。
立ち止まってはまた動き出す思い。
2012/03/06