Stop and go.



しばらく沈黙が続いた後、彼は驚きの発言をした。


「・・・・・・そういやぁ、白石と付きおうてるん?」

「え?」

「朝から思てた。白石のこと名前でよんどるなって。」

「親友宣言したときに名前呼びしてくれって・・・・・・。」

「ほー?ほな付きおうてるわけではないんやな?」

「う、うん。」


真剣な顔をしてそんなことを言うから吃驚してしまった。

そうか、名前呼びするとそういう心配もでてくるのか・・・・・・。

しら、じゃなかった蔵ノ介モテるしどうしようかな。

変なうわさがたつのは嫌だ。


。」


そんなことを考えていると、忍足くんから呼ばれる。

え?今、名前・・・・・・。


「呼んでええよな?」


驚いて見ると、少し顔を赤くした忍足くんが目をそらしてそんなことを言った。

すごく、嬉しい。


「じゃぁ、私も・・・・・・呼んでいいかな?」

「そんなん当たり前やん。むしろいつになったら呼んでくれるんかなって思ってたくらいや。」


ドキドキする。


「謙也・・・・・・くん。」


おそるおそるボソッと言葉にする。

なんとも言えない、温かい気持ちが心を支配していく。


「なんでくん付けやねん。そこは呼び捨てやろ。」

「えっ。」

「え、嫌なん?白石はしてんのに?」

「あ、いや、そうじゃなくて、その・・・・・・なんか。ううん、これからもよろしくね。謙也っ。」

「お、おん!」


二人で顔を見合わせて笑う。


「教室、戻ろか。」

「そうだね。」


扉の前で立ち止まって謙也は振り返った。


、ほんまに、ええんやな?」


その言葉にうなづくと謙也もうなづいた。


「私にはみんなが居るもの。話したことがすべてだよ。」

「せやな。俺はずっとそばにおる。もちろん四天男子テニス部やってそうや。」

「うん、ありがとう。」

「ほな、いこか!」


そういって謙也は歩みを進めた。

けんや、か・・・・・・なんかやっぱり恥ずかしい。

私は、謙也が好き、大好き。

この想いをあなたに告げられたらいいのに。

言おうと決心したのに。

臆病者。

背中を見つめて、そしてきつく目を瞑る。


この想いが、いつかあなたに届くように。

ただ、今は友達として、仲間としてでいい、傍にいることを望みます。


再び目を開けると大好きな人の背中を追いかけた。


教室に帰って、白石にすべて話すとやっと少し進展か?と笑っていた。


「蔵。」

「なんや?」

「ありがとう。」

「お安いご用やって。」


笑いながら頭をなでられて、少し泣きたくなった。

本当に私は幸せものだ。


「あとは二人がくっつけばオールオッケーなんやけどなぁ。」

「ちょ、ちょっと蔵ノ介っ。」

「ほんま、いつになるんやろうなー。」

「う・・・・・・そんなこと言ったってー。」


うな垂れながら蔵ノ介の方を見るとホンマじれったいわーとため息をついていた。

ため息をつきたいのはこっちのほうだ。


「せやかて、言わんと何もかわらへんで。」


急に真面目な顔をして彼は私にこう言った。


「経験者は語る、ってやつやな。」


と続けて笑ったが、その顔は苦しそうで何もいえなかった。


ふと廊下が騒がしいことに気づいた。

蔵ノ介も気づいたようで、廊下の方を見ていた。

外でサイレンが鳴っているのも聞こえる。


「何事だろう?」

「さぁ・・・・・・っと電話や。もしもし?」

『白石!謙也が!!』

「設楽、謙也?あいつがどないしたんや。」


相手は設楽さんらしいが尋常じゃないほど慌てているように聞こえる。

謙也・・・・・・?

謙也に何かあったのだろうか。

いやな予感がよぎる。


『謙也がっ・・・・・・!刺されたらしいねん!』

「は・・・・・・?え、どういうことやねん?この騒ぎは謙也か?」


明らかに動揺している白石を見て私は教室を飛び出した。

後ろで私の名前を呼ぶ声が聞こえたけれどそれを気にしている余裕はなかった。


「謙也っ・・・・・・!」


向かうは救急車の止まっている場所。

人ごみを押しのけて前に進む。

やだやだやだっ

息が切れる、苦しい。

これほど自分の体力のなさを痛感したことはない。

乗っているのが謙也だと決まったわけじゃない。

早く、早く確認したい・・・・・・。


乗っているのが謙也じゃないと、そう確認したい。


二階から救急車の前に運ばれていく人が見えた。

よく見えないけれど、あれは間違いなく・・・・・・。

自分の足が震えるのがわかる。


「謙也っ!!」


担架に駆け寄ると青白い顔とお腹辺りが真っ赤に染まった謙也が目にはいった。


酸素の足りない脳と現実を認めたくない私。

何がおこっているのか混乱して頭の中がぐちゃぐちゃ。


白石と設楽さん、顧問の渡邊先生と走ってくるのが見えた。


その後はあまり覚えていない。

目が覚めると設楽さんが手をつないで肩を貸してくれていた。








現実








2012/04/15