Stop and go.



帰り道。

4人で並んで話している。

設楽さん、忍足くん、私、白石の並び順だ。


「そういえば、朝何を言おうとしとったん?」


忍足くんにそう言われ朝を思い出す。


「あの由香のアホがきたせいで聞けんかったやん。
 
 いいあっとったせいでいつの間にかも白石もおれへんし。」

「アホ言うなアホ謙也!」

「アホにアホ言われても悔しないわ。」


朝・・・なんか言ったっけ。

あぁ、あれか。思い出した。


「この前の地区大会決勝進出おめでとうって言いたかったの。」

「お、さん見にきてたん!そらおおきに!」

「きとったんなら声かけてくれればよかったんに。ってお前試合関係あらへんやん。」

「ええやんか、ヘタレの代わりに代弁や。」

「あはは・・・。そんなあの女の子の中で自分だけ近づくなんて私にはできないよ。」

「由香のアホはマネになる前やっとったで。」

「アホ、設楽と一緒にしたらあかんやろ。」

「いてっ。まぁそらそうやな。」

「それどういう意味よ!」


忍足くんが設楽さんの事を言うとすかさず白石くんのツッコミが入り、すかさず設楽さんが抗議する。


「みんな本当にスマートな試合でうらやましかった。」


白石は聖書と呼ばれるだけあって本当に無駄のないテニス。

つまらないと思われようが確実にチームに一勝をもたらす。

部長として私が見習うべきものを彼は持っている。

忍足くんは持ち前のスピードでどんな球も拾って相手に返す。

シングルスよりダブルスに起用されるのが多いのは白石と千歳くんが

いるからなんだろうか。千歳くんはいろいろすごいし。


「次勝てば優勝やねぇ。」

「せや、謙也がへませぇへんかったらストレート確実やで。」

「アホ!地区大会なんかで負けるかい!1ポイントもやらへんわ。」

「ほう?言うなぁ謙也。期待しとるわ。」

「おん、まかせときや!」


忍足くんの笑顔がまぶしい。

会話を聞きながら忍足くんを見ていると目があった。


「何や、そんなにニコニコして。」

「えっ。」

「くくっ・・・。」


目が合っただけでもドキドキしたのに疑問を投げかけられてとっさに答えられなかった。

そんな私をみて白石は笑をこらえていた。

白石を尻目に忍足くんに返事を返す。


「い、いや。部活の友情っていいなーって思って。」

「謙也との友情?何言うとんねん。さぶいぼでるわ。」

「おい白石!どういうことや!」

「謙也やもんなぁ。」

「お前もうっさいわ!」


笑っていた白石は急にまじめな顔をしてそう言い放った。

忍足くんは冗談に聞こえへん!と叫んでいた。

うん、やっぱりなんかうらやましいな。

私は部長になれなかった前の3年生によって作られた孤立化が今もなお続いているから。

仲がよかった私の親友兼ダブルスのペアは親の転勤によって東京へ戻って行ってしまった。

孤立した時もいつも一緒にいてくれた私の大事な友達。

まぁ、孤立化の今一番の原因は白石達、男子テニス部と仲がいいことだろう。

何だかんだいって小春ちゃんや一氏くん、2年の財前くんとも仲がいいし。

小石川くんは・・・あんまりしゃべったことないけど。


「せやかて、女子やって全国区やんか。そういうのあらへんの?」


白石・・・・・・いいところをつきよる。

でもそういうことを聞くってことは部員とうまくいってないって

ばれてない、そういうことよね。

心配かけないようにずっと隠し通してきたこと。


「自分のことと他の人のことは違うのよ。」

「そういうもんなん?」

「そういうものなの。」

「ふーん?」

「ほな俺らこっちやから。」

「おう、また明日な。」

さんまた話そなー!」


忍足くんは片手を上げてほな、また明日なと言うと背を向けて歩き出した。

設楽さんもその後をついていく。




「しもた!テレビ録画すんの忘れたわ!!」

の一言によりすごいスピードで走っていった。

流石いろいろなところが注目しているだけあってあっという間に見えなくなってしまった。


「ありえへん!!!」


設楽さんも追いかけて行ったようだけど見失ったらしい。

遠くのほうから叫び声が聞こえてきた。


「アホやな。」

「あはは。」


二人が見えなくなったところでまた歩みを再開させる。


「で?話したいことって何や。財前が言うとったけど。」

「あ、そうそう。」


前々から部員から男テニと合同練習がしたいと言われていた。

男テニが目的なのか自分達の上達が目的なのかわからないけど

でも彼らとやることは私に何が足りないのかわかるような気がした。

部員の頼みでもあるし、自分にもプラスになるはず。


「男子と女子で合同練習をお願いしたいの。」

「女テニと・・・?」

「女子って顧問とコーチもめて指導者いなくなっちゃったでしょ?
 
 私だけじゃぁちょっと限界があるし、私自身もっと強くなりたいの。」

「ふむ。」

「そっちにとっては練習にならないかもしれないけど・・・・・・。」

「明日オサムちゃんに聞いてみるわ。」

「ほんとに?ありがとー。じゃぁ私こっちだから!」

「おう、きぃつけてな。」

「うん、また明日ね!」



忍足くんが走っていったおかげで余計なことを考えずに帰宅できそうだ。

設楽さんにはちょっと申し訳ないことだけど。

白石も聞いてみてくれるみたいだし・・・。

いい返事を期待しよう。





女子テニと私と。






2012.01.25